遠藤敏明 プロフィール 有村正一 プロフィール

話し手:遠藤 敏明えんどうとしあき

1958年、神奈川県横浜市生まれ。秋田大学教育文化学部教授、博士(芸術学)、修士(教育学)。筑波大学大学院博士課程芸術学研究科芸術学専攻芸術教育学専修単位修得中退。専門は、芸術教育学、木材工芸。少年時代から工作に深い関心をもち、千葉大学卒業後、スウェーデン国立リンシェーピン大学に留学、スロイド・インスティテュート(クラフトデザイン学部)に学ぶ。現在、素材の特性や周囲の環境、使い手の暮らしなどに合ったものづくりの大切さや、その教育の必要性を学生たちに伝えるいっぽう、木工作品を制作し、日本クラフト展などに出品している。

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聞き手:有村正一ありむらしょういち

株式会社budori 代表取締役社長。自然と共生する緑化商品の開発、『愛・地球博』ボランティア、藤村靖之氏主宰「発明起業塾」を経て2007年に起業。 環境・しごとづくりワークショップの開催、エシカルショップ運営、UNEP(国連環境計画)のサポーターとして環境商品の推進など、社会課題の解決をビジネスで実践する。現在、建材他メーカー複数社の商品開発と事業運営の顧問も行っている。

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「木でつくろう 手でつくろう」(小峰書店)の著者、遠藤敏明さんにお会いするために一路、秋田のアトリエまで。現在、秋田大学の教育文化学部教授として教鞭をとられています。遠藤さんにこの本に込められた思い、そしてその裏側をうかがってきました。

木でつくろう 手でつくろう

書籍「自然と生きる 木でつくろう手でつくろう」

アトリエ
アトリエ工具

1この本がうまれた背景

遠藤敏明
遠藤

小峰書店から『世界一おいしい火山の本』という楽しい本を出版した私の友人が、小峰書店の方に、出版社を探していた私の話をしてくれました。おかげさまで、小峰書店の編集者の方や社長さんに私の話を聞いていただける機会を得まして、スタートしました。

私はもっとたくさん書いたような気がするんですけれど、だいぶ削りながら、こんなふうにしていただいて。実際、さらさらと簡単に書けるようなものではないんだなと思いました。子ども向けの本は難しいですね。

有村

児童書は難しいんですね。

遠藤

論文は論文なりにいろいろありますが、どれぐらいでできあがるというのがわかりますし、そこでこんなに苦労しなかったように思います。でも、これは結構悩みましたよ。あまり興味のない人たちにも読んでいただきたい。少しでも興味を持っていただきたいと思って書くのは難しいですね。初めから興味があるという人ばかりが読むのではないんだよなと思って書くので、そのへんが一番難しかったかなと思いました。

有村

木のものをつくるコラムは絵本として眺めて、見ても楽しいなと思いました。

遠藤

ありがとうございます。絵を描いてくれたのは、前からお願いしたいと思っていた方なんです。制作課題は、大学で似たようなことをやっています。

随分と昔のことになるのですが(笑)、大学に勤めて最初のころに、スウェーデンの小学校でスロイドという教科のなかでやっている課題を、秋田大学で教員養成用の課題にしてみました。
実際、やってもらったらなかなかできない。スウェーデンの小学生ができていたものが、なぜ日本の大学生ができないのか、悩みました。

どんな課題かというと、スウェーデンの例ですが、クラスの7〜8人のグループごとに、街の一つの風景を考えてもらいます。
例えば一つのグループは、相談の結果、「バス停でバスを待つ人たちという」テーマに決めます。
その風景をグループのみんなで考えて、話し合います。風景の中には、人がいっぱいいますよね。みんなで手分けして、一つのシーンをつくります。
例えばバス停で待つ人たちというと、1人の子はバス停の標識を作りますね、別の子は一番最初に待っているおばあさんの様子を作る。少し背中がまがっているかもしれません。杖を持ってるかな。その次の人はサラリーマンです。新聞を読みながらバスを待ってる。黒い鞄を持っているでしょうか。次の人は子ども連れのお母さんを作る、子どもは、どこかでもらってきた風船をにぎりしめています。お母さんは子どもの手をひいています。そういうふうにやって1つの町がだんだんできてくる、そんな授業を行うわけです。それは非常に面白いんですよ。全部、木でできてます。木を切って削ってつくった人形と、木で作ったいろいろなものが、わぁっと、ほんとうに広がるんです。クラス1つで。これはぜひ日本で一度やってみたいと思った。

有村

日本ではできましたか?

遠藤

難しかったです。僕も若くて指導がなってないし。なぜできないのか?自分なりに考えまして、できない理由を1つ見つけました。それは、日本の大学生が、これまで真剣に、ナイフで木など削った事がないということです。みんな初めて。鉛筆すら削った事がないという人もたくさんいます。ノコギリも使わないですね。そういえば中学校のとき技術科でちょっと使ったなんていう人がいるぐらい。最初の課題にはグレードが高すぎたかもしれないと思い、考えました。そのときに考えた課題の1つ、見てもらえますか。

有村

ぜひ。

コマ
遠藤

とにかくナイフを使おうと。
当時、年間300人程度の学生を指導しなくてはならず、講義ではないので一度にやるわけにもいかず、3つのクラスに分けていました。でも、人数のばらつきが多いし、いずれにしても100人以上を同時に教えなくてはなりません。最初はバターナイフやスプーンを考えましたが、特別なジグも万力も十分に準備できません。他に工具を準備できませんから、ナイフ一本でできる課題じゃないとだめです。さらに、ともかく安全に、みんなにナイフを使ってもらうには、デザインに左右されず削りやすい形の必要がありました。つまり、根気よくやればできる形が必要です。
これです。

有村

これは何ですか。

遠藤

こう置いて、例えば普通に回す。コマみたいなものなんですけれ
ど、こうやって回します、見ていてください。

有村

これは何ですか、磁石みたいな。回していると反転して回り出す!

遠藤

念力をかけた!(笑)

有村

えっ。どうしてこんな動きをですか?

遠藤

実は念力でも何でもないですよ。愛読しているアメリカの『ファインウッドワーキング』という専門誌や、『遊びの博物誌』という本の中に載せられていた記事とか見て、教材化したんです。面白いでしょう。

有村

どういうことになっているのでしょう。

遠藤

こうやって作るんです。(ナイフを取り出して削りの角度をひねりながらつける。)これは私の授業であるんです。いろいろな形でできるんです。左の大きなものは学生が作ったんですけれど、両面になったらどうなるのでしょうというので、やってもらいました。芋みたいな形で、左側に回してもこうして右に戻るんです。
先ほどの『世界一おいしい火山の本』を著した友人が、自分の研究室の学生が作っているのを見て、「回転かつおぶし」という名前をつけてくれました。やっぱりネーミングのセンスありますよね。素敵でしょう!
先日、私の知り合いが、うちの大学で学んだという人と会われて、「遠藤という先生は知っている?」と聞いたら知らないと言われたそうです。「それでは、回転かつおぶしは?」と聞いたら、「あれ、私はできました!!」と話が盛り上がったそうです。

有村

なぜ戻るのでしょうか?

遠藤

削り方が、S字に削られていて、プロペラみたいになっているんです。わからないようにけずらないといけませんけどね。オーバーに削るとバレバレで面白くないですね。こういう道具を占いに使うと、いんちき占いができてしまいます。(笑)「君、今、戻ったね」というと、みんな仰天して、どうなっているんですかと騒ぐんですけれども。どうですか、これは、課題に。

有村

面白い。すごいな。逆転するコマ。

遠藤

これはナイフで削るのが一番いい。ペーパーで作ろうなんて思うと上手く行かないです。かえってバランスが取れないし、きれいにできないですね。ナイフで少しずつ削る。うちの学生たち、のべ3,000人ぐらいにやってもらいました。
ほとんどみんなナイフをはじめて使うんです。最後のほうでは、みんなそこそこナイフを使えるようになりますね。

有村

すごいな、本格的ですね。

KINO都内デパートでのワークショップ
有村

先日、KINOのつくるさじワークショップを雑誌社の主催で都内のデパートスペースで催事を開いたんです。地下1階のケーキ売り場でケーキを買ってきますから!あと最後2時間で食べますよ!とつくっている方に伝えると、とたんにペースが上がるんですね。あとでケーキを今つくっているスプーンで食べるというと、もうしゃべってないですね。(笑)

遠藤

それは面白いですね。僕も言ってみたいなあ。(笑)

有村

本の中の「つくってみよう」のコラム、楽しいですね。ワクワクす
る設計図ばかりです。

遠藤

あのコラムは、どちらかというと中に書かれている理念に到達していただくための、カットと言っては失礼ですけれども、あれはおまけなんです。ほんとうの事を言うと、あの情報だけで作るのはなかなか難しいですよね。誰かがそばにいて、教えてくれないと。ただ、たとえできなくても見て楽しんでもらったり、作れるようになったらいいなとか、材料を集めてみたんだけれどというような人たちが増えてくれると嬉しい。そういうとき、では工房においでよとか、講習会の中で、やろうよみたいな感じができあがればいいと思っています。例えばこんな…。

編機
有村

そうそう靴ひもの。

遠藤

これも、あの書き方でわかるのかと言うと、言葉で説明するのは、すごく難しいんです。
この織機で丸ひもが折れるというのが面白いんです。ちょっと驚きでしょう、織物をやっている先生たちが、みんな初めてみましたと言うんです。
普通は平ひもができるものですね。ところが、簡単に丸ひもができてしまう。

有村

これは面白いですね。

遠藤

慣れてくると結構いろいろなものが織れますよ。

2.考えて動くのが「仕事」
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10th anniversary
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