「意欲のある人、求めます。ただし60歳以上」日本一の高齢者雇用企業・加藤製作所、躍進の秘密

有村:もともと御社の創業はいつからですか?

加藤:創業は明治21年です。グループ企業の元となるのが(株)加藤鉄工ですが、もともとは初代がこの地で農鍛冶屋を始めたのがスタートです。 近郊には豊富な水量の木曽川が流れ、加藤鉄工では水力発電所の請負の仕事をさせて頂いたり、国鉄(現JR)の仕事もしました。

そうしているうちに、名古屋に三菱電機の大きな工場があるのですが、中津川にその疎開工場が出来、その頃に加藤製作所を新たに立ち上げ、三菱の下請けとして製造の仕事もするようになりました。 業種・業態を変えながら今にいたりますが、やはり鉄にまつわる仕事が多いでしょうね。

有村:スチールを使った部品製造を中心とするお仕事なんですね。

加藤:はい。そして30数年前より、エレベーターやエスカレーター据え付け工事、保守点検を手掛けるようになり、そちらも別会社として展開しています。 今、グループとしてはものづくりの部分と、工事又は保守サービスという業態で、事業を展開しています。

有村:幅広い展開ですね。根底にあるのはものづくり。ものづくりと言えば、今「下町ロケット」が高い視聴率で注目されていますね。

加藤:私も本を読んで、ものづくりイコール夢づくりというメッセージに勇気づけられました。 我々部品を製作する仕事はメーカー様とのお取引ですので、エンドユーザーの顔を見るということはかないません。あくまでも裏方の存在です。しかし裏方でもしっかりと役割を担うものを作っているのだという意識がキーになります。

良い製品をつくり続けるためには、社員が仕事を通じて成長し、世の中に貢献していると思えることが大切です。そのモチベーション、やる気づくりは、会社や私にとっての最も重要な課題だと思っています。

有村:それを御社の経営計画書にもお書きになっているのですね、

加藤:経営計画書は毎年それぞれの部署の責任者と共に作り、全社員にお渡ししているのですが、今年は従来のA4サイズから、社員が常に携帯できるように手帳サイズに変えました。経営計画書を通じて会社の目指す方向へと思いを共有してもらうために、社員教育は当社の柱でもあります。

有村:全社員といっても、若手、中堅そしてシニアの皆さん全員が思いを共有するのは大変なことではありませんか?

加藤:確かにそうですが、シニアの社員の人たちは、自分が第一線を退いてもなお必要とされる働く場があるということに喜びを持ち、生き生きとお勤めして頂いていますので、伝わりやすいです。コアとなる正社員に、如何に喜びを持って仕事をしてもらうか、心のベクトルを合わせてもらうか、そしてシニアの人たちとの調和と言いますか、ワークバランスをどうするかが、ここ数年来の私自身の課題です。

有村:工場を拝見したところ、家電製品ひとつとっても非常に広範囲、多様な部品を手掛けておられるようですが。

加藤:はい。加えて伸びている分野には太陽光の部品などもあります。当然ながら、同じ製品をいつまでもという訳ではなく、時代の要請を受けてつくることになります。

有村:御社は特に「絞り」の技術が特徴とうかがいましたが。

加藤:「絞り」は、弊社のキーテクノロジーです。「売り」でもあり「押し」にもなる技術だと思っています。どこでもできるものをつくっていては、コストの土俵で戦わざるを得ません。ですから、他社との違いをどこに見つけるかということが重要になります。

有村:難しいのは精度でしょうか。均一な厚みや、この微妙な丸みですとか。

加藤:まさにその通りです。こんな形状のものも「絞り」加工でできます、という事例を弊社のホームページで見て頂いたお客様からお引き合いを頂くことが非常に多くなっています。

有村:ホームページで社長の書かれた本も拝見しましたが、『意欲のある人求めます。ただし60歳以上』というユニークなタイトルの本についてのお話を聞かせてください。

加藤:私ども製造業は、工場を稼働し機械を動かして初めて売上につながるわけで、工場を土日も稼働できないか?と考えていたところ、中津川には働く場所を探している元気な60歳以上の方が沢山いるという現実を知り、思い切って先ほどの本のタイトルと同じ文句で、新聞に募集のチラシを入れました。 100人近い方に応募いただいて、その中から私は経歴より、人柄、明るさ、笑顔の良さで13名の方を採用しました。

有村:勇気のいることではなかったでしょうか?

加藤:そうですね。社内には本当にできるのかと疑問の声も沢山ありましたが、まずはやってみようと、シルバー社員2名に正社員の指導者を1名つける形でスタートしました。 現在は、社員数100数名のうちの約半数が60歳以上のシルバー社員です。

有村:シルバー社員で勤続年数の長い方だとどれくらいお勤めになられているのですか?

加藤:もともとうちで働いていらっしゃって、継続雇用でずっとという方も大勢いますが、勤続50年なんて方が数名います。シルバー雇用で新しく採用した人たちのうち、 シルバー第1世代と言いますか、スタート時に来て頂いた方たちは、やはり70台後半ということで、今年ほぼ退社されました。今の第2世代の方は平均で勤続10年くらいになると思います。

有村:シニアで製造が初めての方では仕事を覚えるのが大変だと思いますが、その辺の工夫はどうされていますか?

加藤:最初のうちは、シルバー社員の皆さんからの声や要望を吸い上げて、例えば何個作ったらブザーが鳴るといったような装置をつけたり、作業手順書を全て写真入りにして、誰が見ても解るように、といった小さな工夫を沢山しました。何より、正社員が受け入れに対して大変な協力をしてくれたことが有難かったです。同じことを繰り返して教えなければならない等の不満はあったようですが、徐々にお互いに認めあうような雰囲気がシルバー雇用を続けるうちに職場に出てきたような気がします。

今は、新しい方が、シルバーであろうとなかろうと、違和感なく受け入れてくれています。

有村:シルバー社員に来てもらって良かった事例を教えてください。

加藤:例えば改善提案です。製造業には改善がつきもの、常に創意工夫が求められます。

うちも月に1回、全社員に改善提案を出してもらうようにしていますが、シルバー社員は、昔取った杵柄ではありませんが、作業用具をより使いやすくする工夫を、その辺にある物でお金をかけずにする人が多いです。味のある提案も沢山出ますよ。

有村:工場内のバリアフリーやユニバーサルデザインも考えておられるとか。

加藤:シルバー社員が働きやすい環境というのは、つまり誰にとっても働きやすい環境ということですよね。そういう目線で、少しずつですが工場内もあちこち整備して環境づくりをしています。

中小企業のシニア雇用を勧める加藤社長。その訳は?

有村:加藤社長から見て、日本の高齢者雇用の制度、それを支援する動きはどうでしょうか?

加藤:今のところ、多分に手厚いと思っています。うちもシルバー雇用を始めた当初、職場のバリアフリー化に頂いた助成金は大きなものでした。その後も、シルバー社員を採用することによる雇用保険からの助成金も毎年頂いています。

ただ、これから高齢者雇用が当たり前の時代になってくると、支援の動きも多少変わってくるのかもしれません。 2050年には65歳以上の人は2.5人に一人、75歳の人が4人に一人という超高齢化社会が待っています。既に団塊の世代の方が65歳を迎えましたので、そういった背景で見れば、もうシニアの方も働くのが当たり前の社会になっていきています。

ただ、働き方と、受け入れ方という点でそれぞれ努力しなければいけないとは思います。 「ダイバーシティ」と言っても、大企業はともかく、中小企業にとって外国の方はなかなか受け入れづらいです。若い働き手がどんどん少なくなっていく穴をどう埋めるのか。いろんな考え方はありますが、我々中小はやはり高齢者雇用が一番取り組みやすいように思います。ただ穴を埋めるという意識ではなく、高齢者の可能性を活かす仕事を作り出すという意 識も必要になるでしょう。

若い人と高齢者の違いは、知識と経験、特に経験です。それをお借りするという感覚でしょうか。そこにプラスアルファの教育をして、新しいことに取り組んでもらうこともできますし、正社員がやっていた仕事をシルバー社員にお任せして、正社員には一段とレベルの高い仕事をしてもらうなど、いろんなやり方あるでしょう。

有村:高齢者の力を生かすということですね?

加藤:昔は、ほとんどの家族が3世代一緒に暮らしていました。家庭の中に、おじいちゃん、おばあちゃん、そして地域にはご隠居、長老などの知恵袋がいらっしゃいました。落語の世界ではありませんが、何かあった時には相談に行く存在であり、その知識や経験を活かしてきたわけです。

それは今後企業にとっても必要なことです。昔、家庭や地域でごく普通にやっていたことを、これからは企業の中で展開していくということです。

有村:著書の中に、「加藤製作所ファミリー」という言葉が出てきますね。

加藤:特に中小企業にとって、何が一番大切かというと「人」です。大企業ももちろんそうですが、あちらは「人」の前に「組織」がありますよね。我々にとっては、良い人材を如何に育てあげるかが最も重要な課題です。うちの会社も、一人一人の顔が見えるサイズですので、社員というより「ファミリー」という意識で向き合っています。

経営は人・物・金と言いますが、実際、金、物はそう潤沢にあるわけではないので、今いる「人材」をいかに「人財」にしていくか、ということです。

有村:御社のシルバー社員の働き方が変わってきたとお聞きしましたが。

加藤:はい、それは年金の受給開始年齢が大きく関わっています。以前は、皆さん年金がもらえる範囲での働き方を希望されました。孫にあげるちょっとしたお小遣いのために仕事をするというような。しかし今は、高齢者も働かなければ食べていけません。ですから最近はフルタイムのお勤めを希望される方が増えてきました。

人生90年時代に入りましたから、60歳であと30年。もう一回、一花、二花咲かせないといけなくなってきたのです。定年後の働き方を考えた時、自分の経験、知識、経歴をそのまま生かすこともいいですが、全く新しいことにチャレンジする、全く新しい環境に飛び込む勇気を持っていただく事も大事ではないかと思います。

元気になるシニア。そこにある日本独特の空気感。

有村:シルバー社員の方たちは、仕事をすることによって変化があるのでしょうか?

加藤:働くことによって元気になる、これは間違いないことです。多少具合の悪いところがあっても、それ以上悪くはならないというか、むしろ良くなる人が圧倒的に多いのです。 働くということは、人間にとって非常に重要なことだと痛感しています。

リタイアされて初めて感じることかもしれませんが、今日行くところがある、今日用があるというだけで、気持ちの持ちようはかなり違うと思います。 日本人にのDNAの中には「人の役に立つ」ということが組み込まれている気がします。

有村:それは社長の哲学でもあるのでしょうか?

加藤:そうですね。しかしながら自分の成長度は誰しも解りませんよね。スキルの部分はわかっても。心の部分、人間的な成長は目に見えませんから。一番は心、スキルは後からいくらでもついてきます。

今日やる気になっても明日同じとは限りません。やる気の貯金はできませんからね。ですから、社員の皆さんの気持ちを繰り返し繰り返し引き上げるような努力をし続ける仕組みづくり重要になってきます。

有村:経営計画書にも目標の数字だけでなく、気持ちや役割といった部分が沢山書かれていますね。

加藤:会社の理念や目指すところを、それが社風になるまで繰り返し繰り返し伝えなければならないと思っています。そういう意味では、経営者は自分自身の気持ちを落とさないようにするのも大切ですね。

有村:トップが姿勢を見せて、気持ちを伝えてということをずっと継続しなければならない。

加藤:ずっとそう思ってきました。今でも基本はそうですが、部下や社員を信じて任せて好きなようにやらせるというのが一番いい在り方なんじゃないかと、少し変わってきました。 人間、自分で考えて自分でやるというのが一番モチベーション上がりますからね。

有村:それには、社長も我慢して見守るという感じでしょうか?

加藤:正直、数字で結果を出そうと焦ると、なかなかうまくいきません。社員とその家族を守る、社員に喜んで働いてもらうという目標を持っていても、だったらこれだけの数字を達成しなければ、という目的にすり替わってしまうという辺りが難しいです。 焦るとつい、私の我が出てしまいますからね。

有村:その模索も本の中で正直に書いておられるから、素晴らしいと思いました。

加藤:仕組みを作って、放っておいても楽しくどんどん儲かるようになるのが夢ですね。

有村:私自身、経営者という視点で見て、大先輩である加藤社長はすごく正直な方で、悩みながらも、一歩も二歩も前進していこうという思いが、汲み取れました。

社員にもこの本を読んでもらったのですが、驚いたことに私と同じことが伝わったようです。スタッフも、自分たちの親世代の人たちが働くということの意味が腑に落ちたのかなと思います。

加藤:特に御社はクリエイティブな仕事をされていますからね。創造、「つくり出す」という。 うちは同じ創造でも、比較的単純な繰り返し作業も沢山あります。その中に面白みを見出すのは、なかなか大変ではあると思います。

有村:加藤社長のお話を聞いていると、経営者が自分を少し下げて、あるいは自分をちょっと捨てて、その分皆さんを高めていくという、先ほどの日本人のDNAに組み込まれていると言われた、人の役に立つ、人様のために、というスタンスを持ち続けているから、 高齢者の方たちも、気持ち的にすっと入っていきやすかったのではないでしょうか。

加藤:確かにシルバー社員の皆さんを、単に休みの日に稼働させるための安価な労働力として見ていたら、ここまで続いていなかったかもしれません。 もちろん、結果として固定費を下げるという意味ではありがたい存在ですが、一番最初に求人広告を出したときに、その方たちが生きてき歴史に尊敬の念を持ち、よきパートナーとして迎えたいという思いは根底にありました。

若い人たちと話す、そして任せる。大切なことは「しくみづくり」

有村:僕以上に、若いスタッフたちがお話を聴いてみたいと言ってくれたことがすごくうれしくて。僕の立場として、先輩経営者のお話を聴きたいってのは当たり前ですからね。今回、加藤社長のお話は、若い人にこそ本当に伝えなきゃいけないと思いました。

働くことの大切さ、人に対する思いやり、日本人が昔から当たり前に大事にしてきたことが、押し付けではなくこの本を通じて自然に感じることができると思います。

加藤:若い人たちを信じて任せる、これはとても大事です。関連会社にエレベーターの据え付けと保守をする会社があるのですが、こちらは事業所が県内外に8つあります。私がいつも行ける訳はないので、任せ切っています。任せ切ると社員が生き生きします。そして自然に数字がついてくるのです。社員の顔を見に行って、仕事終わりに全員で一杯飲むみたいなことばかりしています。

しっかりした仕組みさえ作れば、こんな経営もできるのかな、と最近つくづく思います。私のまわりにもいろんな社長さんがいますが、この人大丈夫かな?という社長の会社が上手くいっているということがよくあります。もしかしたら社員が、自分たちがしっかりしなきゃ、と思うように持っていっているのかと疑うくらい(笑)

有村:そうですか・・・・

加藤:だから、経営者はちょっと抜けてるくらいでいいのかな、と最近思っているんです。 うちの社長はしょうがないなあ、なんて言われるようなね。今、自分の経営のスタンスをものすごく変えようとしているところです。

有村:やはり仕組みですよね。

加藤:そうです。関連会社でできていることを、グループ全体に広げていかないといけないです。良い仕組みじゃないから良い結果が出ないわけですからね。

有村:分かります(笑)

加藤:時代が本当に厳しくなっているからこそ、社員が、言われたことさえやればいい、決められたことを決められたとおりやればいいという姿勢でいると駄目になります。自分たちで考えて、自分たちでやれるようになっていかなければいかんということは間違いなく言えます。

有村:加藤社長は多分四六時中そういうことを考えてらっしゃるんでしょうね。たとえば社員を守っていくために新しい目標を求め、成果を出すためにご自身も含めて変化していこうということですね。

加藤:そうですね。TPP一つとってもそうですが、世の中の動きについていこうと思ったら変化しないとどうしようもありません。下請けとして、言われたことを言われたようにするだけでは早晩食べていけなくなるでしょう。思い切って飛行機にチャレンジしたのもそれが理由です。

私が考えているのは、とにかくどうやってみんなをやる気にさせるか、どうやって奮起してもらうか、そればっかりです。やはり、忙しく残業が連日となると、みな元気がなくなっていきます。 そのあたり、シニアの方たちはそれまでの仕事人生の中で様々な苦労をされているから、仕事に対する感謝の心をもっていますね。楽しさが伝わってきます。以心伝心というかある意味わかりやすいです。

逆に、若い人たちに対しては話を聞くことを大切にしています。何を考えているかわからなかったら聞くしかない。ですから、仕組み作りの第一歩として、話し合う機会をつくる、場をつくるというのはとても大切だと思っています。

有村:私の実家は大阪の下町で小さな鉄工所を経営していました。通常鉄とアルミ素材でしたが、極たまに飛行機の部品になるチタンネジを切っていました。チタンを初めて加工した父が、私を飛行場に連れ出し、機体を指差して「あれを手伝った」と言うんです。 あまりに唐突すぎて最初は何のことかわからなかった。しかしよくよく考えると14坪の小さな町工場がなかったら、もしかしたらあの飛行機は飛ばないのだと、自分の父の仕事を以前に増して素晴らしいいものだと思いました。

私が今、仕事をする上で大切にしたいことのひとつとして、そういう目に見えないところを支える人たちが、日本を、あるいは世界を支えてくれているのだということを伝えたいと思います。誰かのために懸命に働くことの尊さ、生かされている意味、見えない部品であっても世の中を動かす力とそこに携わる方々の思いを伝えていきたいです。

加藤:見えないところに光をあてるということですね。

有村:創意工夫で懸命にものづくりをする。シニアに尊敬の念を持ち、働くフィールドを提供し、社員の皆さん一丸となって共有する。

そこに働く喜び、誇らしく楽しい笑顔が生まれる。今回沢山の学びを頂きました。本当にありがとうございました。

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