budoriのたのしごとインタビュー 自分の仕事をなくしていくこと 菅原伸忠×有村正一

「平和なスラム」

有村  縁で、たどり着いたシャプラニールということですが、働きはじめて、何年になりますか?

菅原  だいたい4年半です。ことしで5年目ですね。

有村  バングラデシュで活動することになったのは、どうしてですか?

菅原  それは、本当に単純なことで。シャプラニールが支援活動を行っていた場所が、バングラデシュやネパールだったからということになります。

僕は国際協力の業界で働きたいと思っていたけれど、バングラデシュだから、ネパールだから、南アジアだから、というように、特にこの地域に思い入れがある、というのはありませんでした。

根底にはまず、南北問題のような構造に対する問題意識があり、そこは、ずっとブレていません。その構造の転換に資するような仕事であれば、もう、どこにだって喜んで行くよ、と言うように思っていたので。地域研究などもしなかったんですよ、大学院でも。

シャプラニールは見てみたら、バングラデシュとネパールで活動しているとのことだったので応募したはじめから、駐在員として現地に行きたいです、ということだけは、伝えていたんです。こうやってせっかく入ったのに、現場の感覚を理解できないまま働くのは、いやだから。

シャプラニールの主な支援地がバングラデシュでした。という、とくにドラマチックでもなんでもない部分なんですけどね。言うなれば、これも、縁と言えます。

有村  なるほど、これも縁、なんですね。では、バングラデシュに行く前には、それこそバングラデシュって…。

菅原  もう、ぜんぜん知らなかったです。ただ、災害と貧困というイメージしかないという。そんな感じでしたよ。

有村  それでは、バングラデシュのことがよくわからない状態でシャプラニールに入って、はじめてバングラデシュに行ったわけですか。

菅原  いえ、それがですね。じつは、入職する直前に、シャプラニールのスタディツアーで行ったのが最初です。採用が決まったあとに、現地の勉強をしておこうと思って。そのとき、はじめて、バングラデシュってこんなところなのか、と肌で感じました。

有村  現地で感じたことは、何かありますか?さっきおっしゃっていたような、バングラデシュの構造や、現状を見て。率直にどういうふうに感じましたか?

菅原  初めてスタディツアーに参加された方はよく、知識ゼロの状態で現地に行かれて、「消化しきれません」って言うんですよ。もうお腹いっぱいです、と。僕も、そうでした。

言葉にできないんですよね。受けとることの多さで、もう、本当にお腹がいっぱいで、「はあ。動かない」という状態で帰ってきて。

有村  たしかに。現地に行くと、わからないことが多すぎて、むしろ増えてしまったりして。「ああ、だから、こうだった」なんて、簡単に片づけられる問題じゃないんですよね。

菅原  そうなんです。本当、試験問題の答えが、ぱっと埋まる、みたいなもんじゃなくて。だから、その時の自分にはまだわからなかったですね。

帰ってきてシャプラニールに入って、今いる海外活動グループで働きながら、しだいに「ああ、そうか。あれはこういうふうなところに表れてきてるのか」と。

そうやって、徐々に徐々に消化不良を解消していった、という感じですね。だから、もう数ヵ月、下手したら半年ぐらいかけて消化していったのかもしれないです。

有村  なるほど。シャプラニールに入ってから、今度は駐在員として赴任することになって。実際に現地に2年半滞在したなかで、意外だと感じたことはありますか?

菅原  もとからその国に対するイメージを強くもっていて、向こうに行っていたとしたら、たぶん、そのイメージと比較して「あ、全然違う」と感じただろうと思うんですけど。

僕は皮膚感覚で現場のことを理解できるようになりたい、と思っていたので、「わかんなくて、あったりまえじゃないかよ」、と思って行ったんですね。

なので「違う」と思うより、「なるほど。おもしれえなあ」って感じで受けいれていました。日常のちょっとした部分を。

たとえば、衣料品。こういうふつうのシャツとかでも、バングラデシュでは、直して使うことが当たり前なんです。

ちょっとサリーがほつれた、というとき、直してくれるお店がある。現地のスーツ(パンジャビ)も、せっかくだから買おうって買ってみたら、丈が長い。使えないな、たるんでて気持ち悪いな、というときに、袖の部分を、ピーッてほどいて、切って、折り目をもう1回つけて、わざわざ縫い直してくれるんです。

日本だったら、まず考えられないことです。ですが、バングラデシュでは、直すことが、本当に当たり前なんです。

電気のミシンでダダダダッと縫うんじゃないんですよ。足踏みミシンですよ。ドンドンドンって。けっこう大きな音でね。僕も使ったことがないんです。小さいころにはもう、足踏みミシンなんて、誰も使わないようなものだったんですけど。それが、現役で動いている。
日常のなかに、そういう、ちょっとノスタルジックな部分がありました。

有村  たしかに、もう見ないですね。足踏みミシン。

菅原  もうひとつ感じたのは、人のつながりがすごく濃いことですね。現地でCNG(三輪のベビータクシー)に乗ったとき、運転手に「兄ちゃん、外国人か?」「給料いくらもらってんねん?」て聞かれて。二言目、それかい?っていう(笑)、そういう人がたくさんいるんです。心のなかにズカズカ、土足で入ってくるぐらいなのが、当たり前なんですよ。向こうでは。

有村  やっぱりお金の話は関西弁になりますか(笑)。

菅原  姫路の人間ですので(笑)。バングラに行って感じたことと言うと、いちばん強かったのは、やっぱり人とのつながり。人を思いやる、素朴な人間的な気持ちでした。

有村  人間どうしの距離が近いんですね。

菅原  はい。ほんとに、近いんですよ。

ラマダン(断食月)の時期に、インターネットの接続に使うルーターが壊れちゃって、買いに行ったことがあったんですね。ラマダンは期間が1カ月あるんですけど、お店に入ったときに、ちょうど、日没になってロジャ(断食)が終わって。

ロジャの後に食べる食事は「イフタール」っていうんですけど、ちょうど、僕がお店で申込用紙を書いているときに、その時間になったんですよ。お店のお兄ちゃんたちもお腹がへってぺこぺこだから、いそいそとその場で食事の準備を始めて。

菅原  「ああ、始めたなあ。おなかぺこぺこだろうなあ」とか思ってたら「あんた、ムスリム?」って聞かれて。「いやあ、違うよ」って言ったら「ああ、そう?よかったら一緒にどう?」って。

「あ、ほんと?いいの?でも、あんたたちの分、なくなっちゃうじゃない?」って言ったら、「いいよ、気にしなくていいから」と。なので僕も「本当?じゃあ、もらう」って感じで、いただいたんですね(笑)。

お店でごちそうになった食事(イフタール)
お店でごちそうになった食事(イフタール)

有村  ルーター売ってるような電気店で?

ルーター売ってるような電気店で?
ルーター売ってるような電気店で?

菅原  この話はね。日本に置き換えて想像してみてください。

ふつうに店を営業していますと。ふらっと外国人が入ってきた。たまたま、ラマダンの時間が終わって食事の時間になった、というときに、自分たちの分しか食事は用意していないはずなのに、さも、それが当然かのように、分けてくれるんですね。「はい、どうぞ」って。

そういうことがあると、やっぱり、本当にバングラデシュの人ってあったかいな、って。人っていいな、って思って。そういう話、向こうでは、枚挙にいとまがないんですよ。すごいでしょ?

有村  すごいですね。

菅原  バングラデシュではそれが当たりまえ。そういう国民性なんです。

僕はもともとシステムエンジニアをやっていたこともあったし、結構、考え方がドライな部分もありました。たとえばマンションに住んでいても、人との関わりは、あんまりもちたくないな、と思っていたんです。けれど、向こうでの生活がきっかけで、いまは、反対に、人に興味をもつようになりました。

どんな人が住んでいるのかなって。なにかつながりができたらいいな、とか、思うようになりました。何かを感じたというよりは、僕がバングラデシュに感化された、という感じが近いですね。

向こうでの生活がきっかけで、いまは、反対に、人に興味をもつようになりました
向こうでの生活がきっかけで、いまは、反対に、人に興味をもつようになりました

有村  いま、バングラデシュは「貧困の国」って呼ばれていますね。そこは、どうなのかな、とは思っています。

菅原  やっぱりあれは、偏向報道ですよ。よく「最貧国」っていうようなイメージで、スラムと、豊かな都市やきれいな建築物とかが、対比になっているような絵がでるじゃないですか?いやあ、でもこれ、違うよって。やっぱり思いますもん。

このあいだ、ある戦場カメラマンの人とお話したのですが、バングラデシュを「こんな平和なスラムはありえない」って言ってました。なんで、みんな笑顔でいられんの?それが不思議でしょうがない、って言ってました。

通常、いわゆるスラムと呼ばれるような地域に外国人が入るときは、金目のものを外していけ、って言われるそうなんですね。腕時計でもして行こうものならね。腕、切り落とされたりするぐらいだからって。

そんななかで、スラムでも普通に入っていって、普通に愉しく会話する、受け入れてくれるんです、バングラデシュでは。僕はバングラデシュにしか長いこと住んでいないので、これが当たりまえのような感じでしたけど、…その話を聞いて、ぞっとしました。

たぶんそういうあたたかさ、やさしさみたいなものが、バングラデシュのすごく特殊な一面と言うか、ユニークな一面なんだろうと思います。

有村  おもしろいね。

三輪タクシー(CNG)で野菜を売る現地の青年
三輪タクシー(CNG)で野菜を売る現地の青年

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