budoriのたのしごとインタビュー 自分の仕事をなくしていくこと 菅原伸忠×有村正一

「仕事をなくす」ためのしごと

有村  実際のところ、フェアトレード活動の現状や、バングラデシュの人びとの暮らしの現状は、どうなっているんでしょうか。

菅原  難しい問題ですね。フェアトレードを実施している団体は今、みんな課題を抱えています。フェアトレードというものが、先進国、特に日本でうまく広がらないなかで、どうやったら広めていけるんだろうか?という課題もありますし、生産物そのものにも、クオリティを確保していくことが大変だったりして、悩んでいます。

シャプラニールはいま、現地の生活の実態を調査しています。
生産者の生活に対して、うちのオーダー(注文)が、どの程度影響しているのか気になっていて、現地のいくつかの家計を、半年後・1年後・2年後というスパンで定点観測しているんですね。

結果として、世帯ごとの収入は上がっているんですが、それはうちのオーダーのおかげではなくて。むしろ、シャプラニールのオーダーのインパクトというのは、総体的には下がっているくらいだとわかったんです。
これでは、「現地の生活向上のためにやっています」というお題目でやっているわけなので、自分たちの理想としていた部分と現実の結果とに、乖離がでてきていることになります。

私たちシャプラニールは「いちばん身近な国際協力です」というキャッチコピーで商品販売を展開しています。ですが、実際にアンケートを実施したり、常設店の方々の意見を聞いてみると、「国際協力だから」という意識で選んでいるわけではないんですね。純粋に、良いものを選んで購入されているらしい。買って帰ったあとで、よく見てみたら「フェアトレードの商品だったんだ。へえ。」って、そういう人が多いんだそうです。

有村  なるほど。でも良い傾向ではありますね。

菅原  その通りですね。「フェアトレードだから」といって買って下さる方は非常に意識の高い方であって、だからこそ商品にちょっとした不具合があっても片目をつぶって見て下さる方が多い。でもそれではチャリティ的な要素が残ってしまうし、特殊な顧客層が購入する商品ということになってしまう。

だから、何よりもまずはいい商品をめざしたい。いいもので、買ってみたら、実はフェアトレードだった、っていう展開ができればいいなと思っています。生産物の品質やデザインといった付加価値を、ビジネスとして成り立つ方向で向上させていくというかたちです。しかし、そのためには相当の覚悟と努力が必要です。他方、フェアトレード商品を開発教育教材と捉えて、商売ではなく消費者への啓発的な活動に軸足を移していく方向性もある。実は組織としての大きな岐路に立っていて、なかなか方向性を見極められずにいる。これが、我々がいま抱えている、いちばん大きな課題ですね。

有村  なるほど。では、これからバングラデシュに行こうと考えている人たちに、何か伝えたいことはありますか?国際協力を仕事にする人がもっと増えたらいい、とは思ってらっしゃると思うんですけれども。菅原さんのように「もっと世の中を良い方向に変えていきたい」と思っている人たちに対して、どういうアドバイスをしたいですか?

菅原  当事者がどのような立場で活動にかかわるか、ということにもよるんですけど、ひとつの「しごと」として考えたとき、僕がいちばん健全だと思っているのは、いわゆる「ソーシャルビジネス」と呼ばれるやりかたです。あまり「ソーシャルビジネス」っていうコトバは好きではないですけどね。

課題解決のための事業そのものが、ビジネスとして成り立つということですね。収益が得られるから、ちゃんと回っていく。そんなかたちが、本当はいちばんいいんだろうな、と思っています。自然だし、無理がないから。

有村  うん、うん。

菅原  いま、学生さんでも「NGOで働きたい」、「国際協力の現場で働きたい」と言ってくださる人たちがいます。そのときに、僕は必ず最初に「本当にいいの?」って聞くんですね。「僕らは、ある意味、失業するために働いているんだよ。その覚悟はある?」と。

有村  …と、言うと?

菅原  NGOがミッションとしている部分って、総じて「社会課題の解決」じゃないですか。
そして、NGOが活躍している、ということは、現代社会に、それだけ問題がいっぱいある、ということなんです。警察官が忙しいのは、犯罪がいっぱいあるからだっていうことと同じように。

だから、警察官が忙しい社会よりは、暇な社会のほうがいい。同じように、NGOが忙しい社会より、本当は、暇な社会のほうがいいはずなんですね。

…ということは、NGOのスタッフが「いい仕事したな、おまえ」って評価されるのは、自分の仕事をひとつなくしたときなんですよ。

NGOのスタッフが「いい仕事したな、おまえ」って評価されるのは、自分の仕事をひとつなくしたときなんですよ。
NGOのスタッフが「いい仕事したな、おまえ」って評価されるのは、自分の仕事をひとつなくしたときなんですよ。

有村  なるほど。実は僕も、フェアトレードという言葉がなくなってしまえばいい、と思うことがあるんです。それが、しごとなんですね。自分の仕事をなくすことが。

菅原  そう。究極はその発想ですよね。

なのでやっぱり、そういう覚悟があって初めて、このしごとはやっていけるんですよと。学生さんであっても、社会人であっても、それだけの覚悟はやっぱり必要だと思います。そうでなければ、自分の仕事や雇用を確保するために仕事をしつづける、ということになってしまうから。それでは本末転倒です。

有村  そうですね。

菅原  いつ仕事を失っても構わないという覚悟をもったうえで、目指さないとだめだと思います。だからこそ、仮に取り組み続けてきた「しごと」がなくなってきたときに、「それなら自分はこれで食ってこう」というふうに思えるもの、スペシャリティみたいなものは、常に意識しつづけてこなきゃいけない。

有村  なるほどね。

菅原  たぶん、その意識しつづけるものがあって初めて、自分のNGOの職員としてのしごとにも、それが活きてくるんだと思うんです。

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