プライドを捨てられない不治の病

有村:さて、ここから藤村靖之先生にお話をうかがいたいと思います。個人的なことですが、私が藤村先生とお会いしたのが、2002年の発明起業塾、大阪で5期をなさっていたときでした。そのとき、発明起業塾では私が一番最年少、35歳でした。ほかの塾生は、ほとんど40代、50代、あるいは60代で「特許を取得したい」とか、「パテントとっていきたい」とか、そういう視点で参加されているかたが多かったように記憶しています。

でも、そういうかたに対して、藤村先生は、手取り足取り教えるのではなくて、考え方の切り口をパリッと変えてしまうようなことをなさるのです。

まさに、マインドセットを変えてしまうようなひとことを、おっしゃってくださいました。なんと言うか、圧倒的な話術や、根本的な考え方っていうものが、本当にすごくて。本当に惚れてしまって。まだ弟子をやらせていただいているというわけです。

本日も、そんなシニアの仕事に対するマインドセットを変えるような言葉が出るのではないかとワクワクしています。では、よろしくお願いします。

藤村:そうですね。まず、その。シニアが第二の人生に進むうえで、治りようもない不治の病っていうのがあるんですよ。男性に。

こんな言葉があります。「女は本能で生きる、男はプライドで生きる」ってね。それからもうひとつ。「男は立場で考える、女は感性で感じる」。

これはもう昔からそうです。いまも変わっていません。とくに僕たちの世代、60代、70代ぐらいっていうのはそうなんですけどね。人生のエスカレータに乗っかって、プライドを積み重ね過ぎちゃった部分がある。そのうち「プライドを崩されるぐらいなら死んだほうがましだ」みたいになってくると、これはもう不治の病ですよ。

不治の病というからには、薬なんてありません。そのうえ「ヒーローにならなきゃ気が済まない」っていう病気もあるし……。「いや、プライドなんかかなぐり捨てるんだ。第二の人生だから……」なんて無理したってね。ひとつも面白くないんです。だから、みんな上手くいかない。

有村:そのプライドの中身を、どうにかして変えられたらいいと思うのですが。

藤村:「ナントカ大企業のナントカ取締役だった」みたいなプライドにしがみついたまま、老後を過ごしても、なんの面白いこともない……と、僕なんかは思うんだけどね。

それよりも「ナントカ大企業のナントカ取締役までいった自分が、今度は若いお嬢さんとタメ語で対等に語り合えるんだぜ」っていうね。そんなふうにプライドをシフトできればいいんだけど。

有村:まさに、そうですね。

藤村:しかしね。おじさんたちが何十年もかかって、ガチガチに築き上げたプライドを変えるっていうのは、精神論じゃ無理なんですよ。方法論が必要です。

有村:どうですか。たとえば、あなたのお父さんはプライドがガチガチなんですか?

納谷:そうですね。いまさら、誰でもやれるような仕事をしたくないっていうようなことを言ってます。

有村:さきほど、納谷から「ハローワークにも仕事がない」って言いましたけども、そんなことはないようです。決して「仕事がない」のではないのです。プライドが邪魔して「仕事を選り好みしている」だけなんです。

藤村:うん。そのプライドを捨てるっていうことは、精神論だけでは僕は無理だと思う。例えばね。これまで立派なキャリアを踏んで、子どもを成長させて、妻もちゃんと……。まあ、ほどほど幸せにして。親もきちんと見送って、社会的に尊敬されて、立派に年を重ねましたっていう人生があるでしょう。

だけど、それまでの人生で、それだけ立派なことをやるからには、きっと、いろんなこと犠牲にしてきたはずなんですよ。だからね。その犠牲を取り戻す意味で、今度こそ、晴れてクリエイティブに生きてみたいじゃないかってね。

みんな、心の底にしまっていたことがあるんじゃないかな。「本当は、これがやりたかったんだよ。だけども、僕の立派な人生のためには、それは犠牲に生きてきたんだ」って言うことだってあるわけで。だから、立派な人生のほうは、もう勲章をもらったんだからね。その勲章はぶら下げておいてね。でも、その勲章の影に犠牲にしてきたことが沢山あるかもしれないですよね。それを思いっきりやってみようっていう考え方。そっちの方に切り換えられればね、可能性があるけどね。

有村:そこで大切なのが「自分の目で見て美しい自分」ということですね。だいたい昔の人は、人の目で見てっていうことですね。

藤村:人の目で見た自分を見ちゃう人が多いね。特に都会とか企業に勤めたりすると、自分を見失ってしまうでしょう。

きょう、久しぶりに東京に出てきただけど、やっぱり都会っていうのは、とにかくヒトと、モノと、コトバが多すぎる。コトバと情報は意味が違う。情報っていうのは、データですけど、コトバっていうのは感情を伴って心に突き刺さってくるものです。こんな場所にいたら、必然的に自分を見失うね。自分を見失ったらまずいですからね。

有村:そうですね。

藤村:だからって「よし、自分を見失わないために頑張るぞ」なんて精神論だけだとね。この洪水のような、ヒトとモノとコトバの多さには勝てないような気がする。やっぱりこれには方法論が必要だね。

僕が大切だと考えるのは、「信念」です。ひとつだけでいい。ひとつ、信念を持ってやらないと自分を見失っちゃう。

藤村:では、田舎だったらヒトもモノもコトバも少ないから信念がいらないのか。っていうと、そういうわけでもなくてね。僕が住んでいる場所なんて田舎でしょう。田舎っていうのは、ヒトとモノとコトバが少ないわけです。

田舎の人はおしゃべりで、たくさん話すでしょう。なんて言うひともいるかもしれません。たしかに田舎の人って、おしゃべりです。だけどそのおしゃべりのほとんどは、ひとつの価値観を認め合うことだけなんです。価値観の多様性もないし、変化もない。そのひとつの価値観をお互いに確認し合ってるだけです。それでモノ足りなかったら、少し自慢してみたり、人をけなしてみたり……。こういう田舎で話される「おしゃべり」はコトバとは言いません。

そんな田舎で暮らしているうちに、何が起こるかって言うと、明らかに知性と感性が鈍くなっていくんだね。もう、それはひとつの法則と言っていいような気がする。知性と感性が鈍くなった人が、クリエイティブな生き方なんかできるはずありっこない。

だとすると、田舎に行ったなら、田舎なりの、知性とか感性を磨き続けるための方法論が必要ですよね。

でも、その方法論がわからないひとは、相変わらず、同じ時間を過ごしています。なんかガサガサしてるうちに1日が過ぎ、せかせかしているうちに1年が過ぎ……。そんなまま、変わらずに何年を過ごすんだろうっていう。

だけどね。プライドも捨てられない。ヒーローじゃないと気が済まないっていう、不治の病にかかっちゃったからね、僕らは。

有村:高度経済成長のなか、どうやって目立っていくのか。ということですね。

藤村:「女は本能で生きる、男はプライドで生きる」っていうのは、古来そうだったんだけど。ただその、プライドの中身がね。高度経済成長に乗っかってきちゃったもんですから。部長だったとか役員だったとか、そういう役職だけでね。

役職っていうと、椅子のことを思い出すんですけど。僕は、大手企業で、ずっと研究開発のリーダーをやっていました。どこの会社でもそうだろうけど、その会社では、平社員はふつうの椅子です。

課長職になるとね。肘掛つきの椅子になるんです。そうなるとね。その課長職はなにをするか、わかる?皆さん、知っているでしょう。大企業って、面白いね。もうね。1日中、肘掛をなでているんですよ。「ああ、やっと課長になれた」ってね。

まあ、わからないでもないです。だって、この国は「身分の社会、妬みの文化」っていわれるような国だもの。この国を表現すればそうなんですよね。でも、それにしても、バカバカしいじゃない。ずっとそんなことやってるの。でも、そこで終わらない。

その上の部長になるとね、リクライニングの椅子になるの。椅子の背もたれを変えられるわけね。部長になったっていう人は、朝から晩までずーと、椅子にもたれかかってばっかりです。

僕は研究所で研究室長っていうのをやっていたんですけど、これが部長職だったんですよ。そしたらね、総務部がその大層な椅子を持ってきて「これに座ってくれ」って言うわけです。実際に座ってみるとね。リクライニングで、ぐいーんって。

「僕は、研究者だから、こんな椅子ではアタマが働かないよ」って言って突き返したのね。

こんな椅子に座ったらね。なんかお金のことかスケベなことしか考えられない。僕はそんなことを考えるためにこの会社にいるんじゃないんだから。

だけど総務は「これは会社のルールだから、これに座ってもらわないと困るんです」って言うわけ。最終的にこっちが折れてね。「じゃあ置いてけ」って言って。研究室には研究員が30人くらいいるから「おい、誰か、この椅子と取り替えっこしようぜ」って言うと、なかには素っ頓狂なのがいてね。「あ、自分、座りたいです」って。だから平社員の椅子と取り替えるわけ。

だけど、やっぱり肘掛はついていたほうがいいなって思ってね。課長職の人間に「おい、これ取り替えてくれ」って言って。これで、めでたしめでたし。と言いたいところだけど総務部長が飛んできてね。「こんな若い社員に部長椅子を座らせるのは何事ですか」って。

有村:ありますよね。本当に課長も部長もやりますよね。肘掛やリクライニング。

藤村:本当にそんなことばっかり。本当におかしな話です。だけどね。ここに、すべての本質があるように思う。そういうところでずっと生きてるうちに、いろんなプライドでガチガチになっちゃうでしょう。

有村:そういう企業風土で高度経済成長に乗せられた人たちは、そのまま、企業依存型のプライドを形成していったっていうことですね。

藤村:だから、そのプライドをはずすことさえできちゃえばね。経験も豊富なんだし、60代になれば時間のゆとりもあるんだし、お金の余裕もある。そう考えれば、我々にできることってあるわけです。

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